従来の「会社」というものは、基本的に人間同士の直接コミュニケーションを前提に設計されている。 朝会、週次ミーティング、1on1、スクラムイベント、オフサイト。どれも「人と人が顔を合わせ、話し合う」ことを中心に据えた仕組みだ。
だが、AI の実用化により、その常識が大きく揺らぐのではないか、と考えた。
従来型組織の限界
近年広まっている静かな退職はその象徴だ。 人々はもう「会社のために頑張る」ことを自明とは思わなくなっている。 むしろ生活のペースを守ったり、過度な帰属意識から距離を置くことが当たり前になりつつある。
加えて、個人のライフステージは変化する。 独身で仕事に没頭できる時期もあれば、家族ができて短時間勤務を望む時期もある。 あるときはコミュニケーションを楽しんでも、別の時期には「余計なやりとりは疲れる」と感じるかもしれない。
さらに、人それぞれコミュニケーションの志向が異なる。
- 同期的な会話が得意な人もいれば、非同期でじっくり考えたい人もいる
- 直接対話を好む人もいれば、文章でのやり取りを好む人もいる
- テキストが読みやすい人もいれば、動画や音声の方が理解しやすい人もいる
しかし従来の組織文化は、このような個人差に柔軟に対応する仕組みを持っていない。
人間同士の直接的なやり取りを前提とする従来型組織には、限界がある。
- 認知負荷
- 情報量の多さに人間の処理能力が追いつかない。見落としがある。
- 感情摩擦
- 内容は同じでも「誰がどう言うか」で衝突が起きる。成果に直結しない摩擦が無駄に発生する。
- 属人化
- 特定の人にしかできない仕事が残り、欠勤や退職のたびにリスクになる。
- セキュリティ
- 人を介した情報伝達は誤送信や口外のリスクを常に伴う。結果として組織は過度に秘密主義へ傾き、透明性を失う。
- 直接対話による情報の漏れ
- 口頭でのやり取りは記録が残らず、重要な決定過程や背景情報が失われる。後から「なぜそう決まったのか」を振り返れない。
- 規模の限界
- 全員が全員に話すような関係は30人程度で破綻する。チームが分断され、情報は部分的にしか共有されなくなる。
- コミュニケーション志向の画一化
- 組織は特定のコミュニケーション様式(会議中心、チャット中心など)に統一しがちで、個人の志向との齟齬が生産性を下げる。
現状維持では立ち行かない理由
こうした現実に対する従来の解決策は、部分的には改善をもたらすものの、根本的ではない。
- 定例会議の増加
- 同期の場は増えるが、さらなる疲弊と形式化を招く
- 管理職の増員
- ボトルネック化と政治の複雑化が進み、問題が見えにくくなる
- チャットツール導入
- 記録は残るが、通知地獄と情報の断片化が発生
- リモートワーク導入
- 非同期のコミュニケーションが得意でないと効率悪化、孤立感も増す
新しい組織構造の試み
近年注目されるティール組織やフラットな組織構造も、本質的な制約を乗り越えられていない。
- ティール組織 -> 自主性は高まるが、依然として人数制限の壁がある。複雑なプロジェクトでの調整コストが膨大化
- フラット組織 -> 階層は減るが、情報共有の複雑性は解決されない。大規模な意思決定で混乱が生じやすい
- ホラクラシー -> 役割は明確になるが、やはり人間同士の直接コミュニケーションが前提で、スケール限界は残る
これらの新しい試みでも、巨大なプロジェクトを効率的に完遂することの難しさは解決されていない。
つまり、人間同士の直接コミュニケーションという前提そのものを見直さない限り、問題は解決しない。
次に向かう方向
では、どのような組織設計が、これらの限界を乗り越えることになるのだろうか。 個人の多様性を尊重しながら、組織としての生産性を維持する形態とは?
その答えの一つとして、AIをコミュニケーションハブとする組織設計を考えてみようと思う。 単なる効率化ではなく、組織の構造そのものを変えるものとして。